サンチーヌの岸壁(創作小話です)

サンチーヌの岸壁(創作小話です)

とある村の近くにサンチーヌの岸壁といわれる 切り立った険しい崖がある

その崖は名のあるクライマー達の中で有名になっており

挑戦しに来るが 皆行ったっきり戻ってこない

ちなみにまだ頂上に登りきった者はいないという

だから巷では「ヘブンズゲート」と言われている

村人達はサンチーヌの岸壁に近付くことはなかった

皆岸壁に挑戦しようとは思わなかったからである

そして想像するにヘブンズゲートとは程遠い 地獄のような光景になっていることが 想像できるからだ

しかし不思議にも思っている

毎月沢山の挑戦者が現れ 帰ってくるものはいないのだが 何故か死臭や腐敗した臭いは漂ってこないのだ

村人達は空気が汚染し 感染病が心配されたが 腐敗臭もなく祟り神も現れなかったので 安堵していた

ある日の夜明け前のことだった

一人の青年が村を訪ねてきた

なんでもサンチーヌの岸壁に挑戦したいとのことだ

村人は命を大事にした方がいいと遠回しに忠告する

しかし青年はどうしても登りたいと懇願する

諦めた村人はサンチーヌの岸壁までの道のりを教えて地図を渡した

青年は礼を言って地図を握りしめ 挑戦しに行った

村を東に出るとすぐに森があり その森をそのまま東に突っ切って行くと そびえ立っている岸壁が見えてくる

地図は意味をなしてないようにみえるが 途中に印がつけられているのを確認すると
少しずつ南東の方にずれていっていることに気付いた

森の中は真っ暗で行き交う蛍達が頼りだった

青年は慎重に進んでいき やがて拓けた景色が見えてくる

森を抜けると月夜に照らされた大地は明るく 目の前にはサンチーヌの岸壁が立ちはだかっていた

村人の話によると遺体や骸出ると溢れかえっているだろうとのことだったが

見渡す限り 岩が並んでいるだけで 人の亡骸のような類いは全くなかった

青年は不思議に思いながらも 岸壁を調べる

長い年月が経過された絶壁は 芸術のようでありながらも

人間を相容れない無慈悲な美しさは 登ることを拒否しているようにもみえる

かなり難しいと青年は思った

攻略の糸口がないわけでもないが 想像以上に絶壁で所々脆くなっている

ハーケンで打ち込むポイントを間違えると 真っ逆さまに落ちるだろう

青年は広大な幅がある岸壁を入念にチェックしていった

そこであることに気付く

ハーケンで打ち抜いた跡や 名残が見当たらない

青年は違和感を感じる

登った形跡がないのは奇妙だった

疑問に思いながらもなんとか 登れそうなポイントを見つける

まずは少しだけ様子をみながら登ってみることにした

しっかり強固な部分を確認しては足場を固めながら 少しずつ上に進む

青年は細心の注意を払いながら登っていくが 厳しそうだと感じていた岸壁を
直感的にクリアできると確信していた

とても長い時間が経った

ジリジリと日中の日差しを受け 青年は汗をかきながら懸命に進んでいた

頂上まであと四分の一だ

焦らずにゆっくりと登っていく

青年は息を切らしながら頂上を目指した

そしてついに頂上までたどり着いた

サンチーヌの頂上に着くと青年は息を切らしながら仰向けに寝転んだ

自分はやったんだと熱いものが込み上げてきた

目をつむり 風を感じていると 呼びかける声が聞こえた

おやおや、乗客がおったぞい

青年は慌てて起き上がり 振り向く

すると白髭を生やした老人が立っている

あ、あなたは一体

老人は青年の質問に気付いてないのか 後ろを振り返り 誰かに叫ぶ

おーい!一人来たからゲートを開けてくれー

ゲート?」

青年は首をかしげながら 老人が向く方をみやる

奥に小さな小屋があり そこにもまた似た老人が立っている

いやいや、すまんな。まさかお前さんこの崖を登ってきたのかね?

そうですが。一体あなたは?

ワシか?ワシはゲートの門番を務めている者だ。いやぁ、言ってくれればここまで連れてきたのに」

青年は状況がつかめず慌ててたずねる

あの、ゲートってなんですか?

何?ゲートも知らずにここまで来たのか?変わりもんじゃの。いいか、ここはなヘブンズゲートの入り口じゃ。皆を新しい高い次元に連れていってくれる。しかしな、本当に覚悟と勇気がある者しか連れていけんのじゃ」

高い次元?この世界とは違うんですか?

うーん、基本的には同じじゃが、お前さんの意識レベルが進化するから、違う世界に見えるかもしれんな

青年は信じられないといった表情で驚いていた

おーい!開いたぞー

わかったー!おいお前さん、ゲートが開いたようだ。行きなさい

いや、でも、そんな

老人は青年を起き上がらせると 腕を掴み小屋にいる老人の方へと向かう

大丈夫じゃ。お前さんは他の連中と違い、自分の力だけで登ってきたんだ。自信を持ちなさい

違うんです。よく分からないんです。ゲートをくぐってどうなってしまうのか、今いる世界に帰れなくなったらと思うと怖いんです

老人は引っ張りながら笑う

おいおい、あの断崖絶壁を登ってきておいて何故怖いんだ?そして安心しなさい。意識レベルが進化するだけだから。今いる世界と同じだから。ただね、見えていたものが違うように見えるかもというだけさ

どう違うんですか?

前より素晴らしい世界に見えるのさ。それには勇気と覚悟が必要だ。皆変わるのが怖いのさ。だから、あの村人達は皆ゲートをくぐろうとしない。変わる勇気がないからな

青年は老人にゲートの前まで連れてかれた

そして老人が青年の手を握る

よく頑張ったな。そして新しい幕開けとなるだろう。お前さんはもっと自分の力を信じなさい。

青年はお礼を言い ゲートをくぐっていった

老人二人は見送った

ふむ、これからが楽しみじゃな

ああ、きっと彼は自分の使命を成し遂げるだろうよ

ゲートは静かに閉じていった

風の音が聞こえてきた

まるで祝福しているかのような 優しい音色だった

はい。

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